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小暑 /
昔からの知恵で、涼を招く

明治国際医療大学教授

伊藤 和憲

勢い増す暑さに、「打ち水」の恵み

 小暑は、梅雨が明けて本格的に夏が始まるとき。この頃からようやく、晴れやかな夏らしさを実感できるでしょう。ちなみに暑中見舞いにふさわしいとされるのは、小暑から立秋まで。ただし梅雨明けが遅れるようなら、明けるの待ってからお便りするのもよさそうです。

 この時期はからだが活動のピークを迎えるとともに、疲れもピークに達しやすいとき。元気が出ない、だるいといったからだの疲れは、東洋医学で「心身一如」といわれるように、こころの疲れにもつながります。感情を上手くコントロールできなくて、すぐに泣いたり怒ったり、わけもなく不安や恐れがつのったり。そうした乱れが高じると、「何をする気も起こらない」といった状態になりかねません。身体にもこころにも、疲れを溜めすぎることのないよう、しっかりと気をつけましょう。

 こうした暑さの盛りにこそ取り入れたいのが、昔ながらの習慣。たとえば、庭や玄関に水をまく「打ち水」です。基本的に気温より水温のほうが低くなる夏は、日差しで熱くなった地面に水をまくことで、地面の温度を下げられます。
 さらに、まいた水が蒸発するときに周りの熱を奪う「気化熱」で涼を得る効果も。ちなみに、普段から打ち水をしている方は、ふっと風が立つのを感じることがおありでしょう。これは、まいた水が水蒸気となることで気圧が上がり、まわりとの気圧に差が生じるから。気圧の高いほうから低いほうへと流れる空気の性質が、なにもないところに風を生みだすことに。「打ち水で涼をとる」という昔からの習慣には、このようにしっかりとした科学的根拠があったのです。

日本ならではの感性で招く、こころの涼

 「打ち水」といった直接的な効果はもちろん、日本の伝統的な文化のなかには、五感に訴えることで室内に涼を招く工夫もたくさんあります。
 たとえば、軽やかな麻素材の「のれん」をかけてみたり、熱気がこもりにくい籐の敷物や「ござ」を敷いてみたり。さらに、窓辺にすだれや風鈴をかける、庭に白や青色の花を植えるなど。

 ただ単にからだに受ける日差しや熱を防ぐだけでなく、見た目からもこころに涼を得ることで、長い夏を乗りこえてきたのです。
 暑いからといって冷房に頼りきるだけではなく、先人たちが培ってきた、五感がもたらす「こころの涼」も、小暑の住まいに取り入れてみてはいかがでしょう。