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大暑 /
涼をまとう和の装い

明治国際医療大学教授

伊藤 和憲

ゆかたを着こなして粋に涼しく

 気温がぐんぐん高くなり、真夏を感じさせる、大暑のころ。その始まりの初候には、各地で花火大会が催され、淡い紫色をした桐の花が咲きあふれます。
 畑ではキュウリ、海ではウニが旬になるのもこのあたり。次候になれば、あなごや枝豆が旬の仲間入りをします。やがて終わりとなる末候の、旬とされるのは太刀魚、スイカ。山や木々の多い公園では、クワガタやカブトムシがよく見られるように。街の中でも、蝉の大合唱である蝉しぐれに包まれて、夏真っ盛りであることを全身で感じられることでしょう。

 そんな大暑は文字どおり、1年で最も暑いとき。ファッションを楽しむにも、涼しさに気を配ることが大切です。
 暑さをしのぐ日本らしい装いとしては、「ゆかた」があります。その起源は、身分の高い人々が入浴時に身につけていた「湯帷子(ゆかたびら)」。もともとは湯上がりにまとう衣類や寝巻として、夕刻以降に着るものでした。やがて江戸時代になると、町人たちの間で木綿のゆかたが定番に。汗をよく吸う綿素材のゆかたは、べたつきが少なく、爽やかな肌ざわり。ぴったりした洋服と違って、空気の通り道がたくさんあるので、通気性も申し分なしです。
 さらに、後ろ襟にあたる衣紋(えもん)をグッと引くと、背中の方にも風が通り、よりいっそう涼しい着こなしに。こうしたことから、大暑のような暑い時期を中心に、快適な服装としてのゆかたが広まったのです。

 ただし近年では温暖化の影響もあり、暑さをしのぐはずのゆかたさえ、かえって暑苦しく感じてしまうことも。「ゆかただから涼しいだろう」と油断せず、汗とり用の下着や麻の長襦袢など、汗や暑さへの対策をしっかりと。
 また、うちわや日傘を持ち歩く、髪をアップにして首元の風通しを良くするなど、衣以外でも涼しくなれるスタイルを工夫してみましょう。

透け感のある薄物なら、見た目も爽快

 そして、ゆかたのほかにも、ちょうど大暑の7月と8月に着る和装があります。
 それは「薄物」と呼ばれる、単衣に仕立てた着物。絽、紗、麻、絹紅海、綿紅海といった、透け感のある素材や織り方の生地を選ぶことで、夏らしい爽やかさを演出しています。着ている本人の心地よさだけでなく、まわりの人々への気くばりとして、目にも涼やかな装いを心がけるのは、日本ならではの美しい感性だといえます。

 こうした良き伝統にならって、からだにもこころにも涼しいファッションで、最も暑い時期を清々しく乗りこえてみませんか。