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処暑/
自然を楽しみながら納涼

明治国際医療大学教授

伊藤 和憲

涼しい夜は虫の音に憩う

 処暑にあたるのは8月23日~9月7日。「来て、たまる」を意味する「処」という字のごとく、ようやく暑さがおさまり、朝や宵の風に秋の気配が漂いはじめる頃です。
 とはいえ日中はまだまだ日差しも強く、納涼床や屋形船などで涼をとる光景が川べりの風物詩に。ちなみに昔から、「立春から数えて210日目の9月1日には台風が来る」といわれてきましたが、ことしの空模様はどうでしょう。天候しだいで差はあるものの、次第に涼しくなる時期だけに、体調管理には十分気をつけたいものです。

 さて、夜が涼しくなるこの頃の楽しみといえば、秋の始まりを告げる虫たちの声です。「チロリンチロリン」と鳴くまつむしに、「リーンリーン」と鳴く鈴虫など、虫ごとに違った音色を奏でてくれます。この声は、雌を引き寄せるための求愛行動ともいわれており、新たな命をつなぐ演奏がひとの心に響くのかもしれません。そんな虫たちの調べに耳を傾けながら眠りにつくのは、秋ならではの贅沢だといえます。

 ただし、声を聞きたさに窓を開けて寝てしまうと、招かれざる虫まで招き入れることに。そこで昔から重宝されてきたのが、虫を殺さずに身を守れる日本の伝統的な寝具、蚊帳(かや)です。

現代のくらしにも活きる蚊帳

 そんな夏の風物詩だった蚊帳も、エアコンが普及するにつれて、一般家庭からは姿を消してしまいました。けれど夜の気温が下がってくるこの時期は、窓を開けて虫の音色を聞きながら、天然の風にあたる方が、心地よく眠れるかもしれません。
 また、エアコンをつけるときでも蚊帳があれば、送風が直接からだに当たらないので冷えすぎの予防に。軽やかに揺れるようすや、光を屈折させる間接照明の効果など、視覚的な涼しさや癒しも得られそうです。

 古来この国に生きる人々は、虫の音色に季節の移ろいを感じ、夜の涼風に吹かれて心身をリラックスさせながら、夏から秋への温度変化にからだを慣らしていました。すっかりエアコンに慣れてしまった現代の私たちも、ときには自然の風に身をゆだねてみたり、昔ながらの蚊帳を活用してみたりして、処暑ならではの安眠を楽しんではいかがでしょう。